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『古典物語』第三章「静麗の妖艶な舞」 二

森の霞に浮かび上がる静麗の美しさに、息を呑む清穆……
(私は、もしや幻を観ているのではないか? 深い森のこの場所は、現実の世界ではないのではあるまいか?)
 心の片隅でそんな風に思う清穆であったが、目の前の静麗の舞うごとに肌が桜色に染まってゆく様子に、やはりこれは現実なのだと思えてきたのである。
 
 舞い終えた静麗は軽い眩暈を起こしたのか、少しふらついた。
 思わず手を差し伸べた清穆……
「大丈夫ですか?」
「すみません。いつも動物たちと戯れるような舞ばかりでしたが、今日は清穆さまに観て頂くので、張り切り過ぎました」
 そう言って、静麗は悪戯っぽく微笑んだ。
 清穆は羽衣を静麗の肩に掛けてあげて、オルゴールも持った。
 ふたりは家に戻る。

 着替えを済ませた静麗は、清穆の持ってきたお菓子とお茶を運んできた。
 そして長椅子に並んで座る。
 
「なんて美しいお菓子でしょう! 頂くのが勿体無いです」
 微笑みながら静麗は、そのお菓子を見つめる。
 「またお持ちしますので、頂きましょう」
 清穆も微笑みながら、そう言った。
 一口食べた静麗は
「とても美味しいです」と嬉しそうに言った。
 
 しかし、そのあと瞳から涙が溢れだす。
 慌てる清穆……
「どうされたのですか?」
「ごめんなさい……。人らしい食べ物を食すことに感動しました」
「……そうでしたか」それを聞いて清穆は、安心した。
 同時に静麗を愛しく思うのであった。そして袂から絹の布を取り出して、静麗の涙を優しく拭ってあげた。

「御馳走様でした」笑顔で静麗は言った。
「喜んで頂けて、わたしも嬉しいです」

 そろそろ帰らなければと立ち上がる清穆に
「今度は、いつごろお越しいただけますか?」
 と静麗は訊いた。
「近いうちに」微笑みながら答える清穆。
「嬉しいです」と満面の笑みの静麗。

「今日は、美しい舞を観せて頂いて、胸が高鳴りました」
「胸が?」
「はい、静麗さんが眩しくて、魅力的で……」
 そう言って、清穆は少し顔を赤らめた。

「それでは失礼します」と帰りかける清穆。
 その清穆の背中に、静麗は頬を寄せる。
 驚いた清穆は振り向き、そんな静麗を抱きしめた。静麗の体は、ほんのりと温かかった。人と同じように温かいと感じた。


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